3人が瑛亮を探している時、瑛亮は道から外れた森の中にいた。
元々道といっても、整備されていないような小道を歩いていたので、
ただ歩いていた瑛亮が、途中で間違えても不思議ではない。


「クソッ、ここどこだ?」


辺りを見回しながら木々の間を歩く瑛亮。
しかし、段々と道から離れいく事に気付いていない。

違う場所とは言っても、同じ景色ばかりで、瑛亮のイライラは増していった。


「リリアスのヤロー、覚えてろよ。後でぶちのめしてやる!」


瑛亮の中ではなぜか、こうなったのはリリアスの所為になっている。
誰が見てもリリアスに対しての腹癒せにしか見えない。

その後も瑛亮はリリアスの悪口を口籠もりながら、四方八方を歩き回った。

瑛亮は歩き疲れ、歩く事がどうでもよく感じ始めた。
適当に座る場所を見つけると、岩の上に腰を下ろす。

リリアスの悪口をあらかた言い終わった瑛亮は、
口数が少なくなり、ひたすらここからどうにやって出るかを考えてみた。
熊を捕まえて、熊に乗って脱出する方法や、
森から抜けるまでひたすら真っすぐ走る方法など、どれも非現実的なものばかりだった。



「どうすりゃ...」
そう言い掛けた瑛亮の鼻先にぽつんと水滴が当たった。
上を見上げると空は雲に完全に覆われて、冷たい雨が降り始めていた。


「今度は雨かよ、クソッ!」


瑛亮はそう言って立ち上がると、近くの通ってきた道の脇に洞穴があるのを思い出した。
雨が激しくなる前にそこに行こうと思い、振り返った時だった。


ドンッ──!!


瑛亮は何かに当たり、その場に尻餅をついた。


「いってぇな……て、愛麗かよ。」


目の前に同じように尻餅をついている愛麗を見つけた瑛亮は、
何もなかったかのように言う。


「何その言い方?もっと喜ぶところでしょ!?」


愛麗はそう言い返すと転がっているバスケットを手に取り、
服が汚れないように直ぐに立ち上がった。

それを見た瑛亮も愛麗から見下ろされてるような気がして、
いやな気分になり立ち上がった。


「さっき洞窟があったの。雨に濡れるの嫌だから、行くわよ。」


行動が早い愛麗は瑛亮などお構い無しに来た道を戻る。
瑛亮も命令されるのは嫌だったが、意見は同じだったので、ついていった。

洞穴はすぐに見つかり、2人は雨が強まる中、駆け込む様に中へ入っていった。


「あー、もう最悪。髪が濡れちゃったじゃない!瑛亮の所為だからね!?」


愛は持ってきたハンカチで手や髪などをふきながら、瑛亮を軽く睨む。


「はぁ!?何で俺の所為なんだよ!」


自分の所為にされた事が気に入らない瑛亮は、いつものように怒鳴った。


「うっさいな。洞窟なんだから、叫ばないでよ。」


愛麗は眉をしかめて、瑛亮から耳を遠ざけた。


「元々、瑛亮がいなくなったからこんな目に合ってるんじゃん。
ずっとアンタを探してたんだから!」


続けてそう言うと、愛麗は服が汚れないようにハンカチを地面に敷き、
その場に膝を抱えて座る。


「そういえば、お前どうやってここまで来たんだよ?」

「瑛亮の足跡を追ってきたの。何度もグルグル同じ所を通ってて、
見つけるの大変だったんだから!」

「はぁ?同じ所なんか通ってねぇよ!」

「嘘よ。気付かなかっただけでしょ!?」

「ンな、訳ねぇ…はずた。」


途中から自信がなくなり、急に瑛亮の声のボリュームが落ちた。


「バカ。…どっちにしろ、この雨じゃ、
足跡なんか消えちゃってるから、帰り道わかんないよね。」

雨の吹き込まないギリギリの所に座っている愛麗は、
洞窟の外のどんよりとした空に肩を落とし、抱えている膝に顔を伏せた。


「……」


そんな愛麗を見て、瑛亮は声を掛けることができなかった。
瑛亮はどうすればいいか分からず、愛麗と少し距離をとって座った。



その頃、リリアスとジルガは…


「愛ちゃぁ〜ん!!瑛亮〜!!」


リリアスは雨宿りをしている木陰から、大声で叫ぶ。


「それ何回目だよ。移動してないから、意味ないだろ。」


隣で耳を塞いで、迷惑そうにジルガが言う。


「でも、愛ちゃんと瑛亮が迷子で、見つかんなくて………」


そう言うリリアスの目にはじんわりと涙が出てきた。

頭の中では2人が危険な目に合っている場面がぐるぐると回っていて、
じっとしていられずリリアスは、雨の中、走り出した。


「やっぱり、リリィ探しに行く!」

「おい、リリィ!」

ジルガもリリアスを追って走り出した。



「は…ハックションッ!!!」


沈黙の中、愛麗は豪快にくしゃみをし、鼻を啜る。

それを見た瑛亮は自分の着ていたパーカーを脱ぎ、愛麗に向かって投げる。


「何だよ、そのくしゃみ。ホントに女かよ。…着てろ。」


投げたパーカーは愛麗の頭に覆い被さるように当たった。

愛麗はそれを取り、1度目の前に広げて確認すると、背中に羽織る。


「うっさいなぁ、バカ。…てか、このパーカー、濡れててよけい風邪引きそう。」

「うっせぇ!じゃあ、返せ!」


瑛亮はせっかく親切にしたのに、文句を言われた事に腹が立ち、怒鳴った。


「やだ。ありがと、瑛亮。」


そう言って身を縮こまらせた愛麗の表情はさっきまでの憂うつさは消え、
何となく微笑みが見えた。

いつもの愛麗なら、こんな至近距離で怒鳴れば、怒って文句を言うが、
意外な反応に瑛亮は少し戸惑った。


「………知るか。」


お礼を言われ、照れ臭くなった瑛亮は、愛麗から目を反らし、素っ気なく返事をした。


その後また沈黙が流れた。
ただ、洞穴の外に降る雨の音だけがいつまでも聞こえてくる。

日頃うるさい車の音やどこともなく鳴る電子音、
カチカチと人を急かす時計の音すら、この空間にはなかった。

しかし、愛麗はその沈黙をすぐに破った。


「瑛亮、風が当たって寒いから、もっと奥行こうよ。」


立ち上がると愛麗は、座っていたハンカチをその場にたたんで、その上に石をおいた。


「こうしておけば、リリィとジルガが来たら、見つけてくれるでしょ?じゃ、行こ。」


愛麗は瑛亮の有無を聞かないうちに、とぼとぼと元気のない足取りで歩きだした。


「俺は行くって言ってねぇだろ。」


文句を言ったが、瑛亮も立ち上がると、愛麗の後を付いていった。


「…熊とかいんじゃねぇの?」


冗談混じりで瑛亮は歩きながらボソッと言った。

それを聞いたら愛麗は、一瞬肩をびくつかせた。


「ちょっと!おどかさな...」

瑛亮に文句を言おうと愛麗が、振り返った瞬間だった。

愛麗は向っている方へ吸い込まれるように背中から倒れこんだ。


「……や」


フワッと足が地面から浮き、恐怖を感じた愛麗は咄嗟に瑛亮の腕を掴む。


「…わッ……!」


そのまま愛麗と瑛亮は重力に引っ張られ、なすがままに下へ下へと落ちていった。