地面なら、とっくに着いていてもいいのに、
瑛亮と愛麗は更に加速しながら落ちていった。
辺りは真っ暗で、お互いを確認する事ができないが、声を出す余裕もない。
ただ、互いの手の感覚だけが頼りだった。
ずっと落ちていくと目の前に白い光が見えてきた。
その光は段々近づき、遂に2人を包み込んだ。
その時、落下は急に止まり体がふわっと軽くなった。
2人はまず、目でお互いの存在を確認した。
しかし、すぐにまた落下がはじまった。
──バタンッ
瑛亮と愛麗は荒々しく地面に打ち付けられるように落ちた。
「いってぇなッ…!」
思いっきり背中から落ちた瑛亮は、上半身を起こして、腰を擦る。
ふと、気付いた瑛亮は空を見上げた。
「晴れてる。いつの間に…」
「いったぁ…」
今度は後ろから声がして振り返ってみる。
そこには仰向けに着地したのか、愛麗が上半身を起こして頭を擦っていた。
愛麗の姿を見た瑛亮はふつふつと怒りが込み上げてきた。
「愛麗、てめぇ、落ちる時、俺の腕掴んだだろ!?俺まで落ちたじゃねぇか!」
「何よそれ。第一声で文句言うの!?“大丈夫?”とか言えないの?…で、ここどこ?」
冷静に愛麗は辺りを見回す。
さっきまで洞窟の中にいたのになぜか森に出ていた。
しかも、さっきとは相反して雨も降っていなければ、
木々や植物も心なしか違って見える。
「お前、地図持ってんだろ?」
瑛亮に指摘され、愛麗は身の回りを見る。
しかし、あるのは瑛亮のパーカーだけで、地図もバスケットも見当たらない。
「…そういえば、全部ハンカチと一緒に置き忘れて来ちゃった!」
「はぁ!?どーすんだよ!こんな森の中、手ぶらで!!」
「知らないわよ!瑛亮は何か持ってないの?」
「財布とケータイはあるけど、ケータイは圏外だし使えねぇよ。」
「じゃ、どうするの!?」
「俺が知るかッ!!」
瑛亮は思いっきり愛麗に向かって怒鳴った。
その声は森中に響き渡るほどだった。
もちろん、奴等にも…。
「グヴゥゥ……………」
獣の唸り声のような音が聞こえて、愛麗は背筋がゾクッとした。
「え、瑛亮…何?」
瑛亮の声だと自分に思い込ませるために、愛麗は無理に訊いた。
「は?俺じゃねぇよ。」
「じゃあ、誰よ…?」
「知るかッ!!」
短気な瑛亮はまた大声を出した。
その時だった。
「グワアァァッ!!!!」
瑛亮の声を合図にするように巨大なイノシシが草むらから2人の方へ向かってきた。
「「!?」」
イノシシは逃げる隙もなく2人へ突っ込んでくる。
2人は反射的に身を縮め、目を瞑る。
バンッ!!
一発の銃声が聞こえ、獣のわめく声がした。
「…?」
何が起こったか分からず、目を開く瑛亮。
目の前には先ほどの巨大なイノシシが腹から血を流してピクリともせず、横たわっていた。
「…どうなってんだ?」
瑛亮はその場から立ち上がると横たわるイノシシに近づく。
瑛亮はその場から立ち上がると横たわるイノシシに近づく。
「お二人さん、大丈夫かい?」
不意に瑛亮の背後から、見知らぬ呑気な声がして、瑛亮は振り返る。
そこには銃を肩に担ぎ、髭面の男が草むらから話し掛けてきていた。
男は革のブーツに革のジャケットを身に付け、180pを裕に越えるぐらい背が高い。
ケラケラしたような余裕の表情で、イノシシを前にしても驚いていない。
「こいつ、死んだのか?」
瑛亮はそう言うと巨大なイノシシをじっと見た。
「そのはずだ。怪我はないか?」
男もイノシシに近づき、足で蹴ってみるがイノシシからの反応は無かった。
「なんともねぇ。」
「そっちのお嬢ちゃんは?」
瑛亮の返答を聞くと男はくるりと半回転し、まだ座ったままの愛麗に話掛けた。
何が何だか分からず、ボーっとしていた愛麗は我に返り、その場から立ち上がる。
「大丈夫。あの、ところで、ここはどこですか?」
この愛麗の問いに男はきょとんとした顔をするが、すぐに元の余裕の表情に戻る。
「何言ってんだ!ここはヴィーリッドの森だろ。さては、お前らよそ者か?
その身なりじゃ、ハンターにも見えねぇしな。」
男は“冗談だろ?”と言うようにケラケラ笑と笑った。
「は?ヴィーリッド?ハンター?何の事だ?意味分かんねぇよ。」
しかし、返ってきた瑛亮の応えは冗談とは思えない口調だった。
2人の言葉は冗談じゃないと分かった男は、ケラケラとした顔をやめた。
「お前ら、本当にこの土地、初めてなのか。ヴィーリッドってのはコイツだ。」
男はそう説明して、隣に横たわるイノシシを軽く蹴って示した。
「で、この森はコイツらの縄張りだから、ヴィーリッドの森って言うんだ。」
男に言われて、愛麗は関心して辺りを見回してみる。
言われてみれば、周りの風景、地面や空気の感触はさっきのいた場所とは全く別物だった。
「へぇー。イノシシの事をヴィーリッドって言うんだ。
それで、ここがヴィーリッドの森ねぇ…」
ふと、気付いた愛麗は動きをピタッと止めて男の言葉を思い出す。
男は紛れもなくこの森を“ヴィーリッドの森”と言った。
「って、ヴィーリッドの森!?何よ、それ!どこ!?」
何が何だか分からずしょぼんとしていた愛麗とは対照的に、思わず声を張り上げた。
「叫ぶなって、お嬢ちゃん。アイツらが集まってくる。」
男は焦って辺りを見回して、ヴィーリッドに見つからなかったか確かめる。
「お嬢ちゃんじゃないわよ。アタシは愛麗!…それと、コイツは瑛亮。」
すっかり調子を取り戻した愛麗は、いつもの強気な顔で名乗った。
ついでに、意地を張っていつまでも名乗らなかった過去を思い出して、
瑛亮も名乗っておいた。
「分かったよ、愛麗ちゃん、瑛亮くん。そういえば、俺も名乗ってなかったな。
俺はハンターのジャンゴだ。」
「そう。それで、ジャンゴ、ここはどこなの?日本でしょ?」
愛麗はジャンゴの言葉を軽く流して、質問した。
「ニホン?どこだ、そりゃ。ここはハーノムって国だぞ。」
「ハーノム?」
聞いたことのない単語に愛麗はきょとんとする。
「何言ってんだ、オッサン。そんな国ねぇだろ。」
そんな、愛麗とは逆に瑛亮は、聞いたことのない単語を真っ向からひていする。
「…どうやら話が噛み合ってないみだいだな。」
ジャンゴは頭をかくと、眉間にしわを寄せ、“困った”と言うよな顔をした。
「これ以上、話がややこしくなる前に言っておくが、俺の話はすべて事実で、
俺は世界中を旅したが、ニホンなんて国は聞いたことはない。」
どうすればいいか迷った挙げ句、ジャンゴは自分の言いたい事をまとめて言った。
瑛亮と愛麗はその言葉に目を丸くして驚いた。