「ど、どういう事?じゃ、リリィ達はどこへ行ったの?」
“日本がない”と言われて、愛麗の頭をよぎったのは、リリアスとジルガの顔だった。
「俺には何が何だかサッパリだ。とりあえず、俺に分かることは、
お前らはこの国にいるのは、マズい。入国許可書もってねぇだろ?」
「ンなもん、ねぇよ。なんだよ、ソレ?」
瑛亮は“当り前だ”と言うように、応えた。
「字の通り、入国を許可するための書類だ。
ハーノムは国を出入りする時の色々が厳しいんだ。
だから、入国許可書がないとばれたら、国に捕まるぞ。」
ジャンゴはそう説明して、“俺のはコレだ”と言い、
ポケットから、紙切れを出して広げた。
「ホントかよ。」
本物を見せられたにもかかわらず、瑛亮はジャンゴを疑いの目で見る。
「信じないんだったら、港があるミラドールに行ってみればいい。後悔する事になる。」
そんな瑛亮にジャンゴは何もないかのように対応する。
それどころか、瑛亮にムッときていたのは愛麗だった。
「悪いんだけど、瑛亮と少し話をさせて。」
親切に教えてくれているジャンゴに対し、
反抗的な態度を取っている瑛亮に我慢の限界だった愛麗は、
ジャンゴの了承を得てジャンゴと距離を取った。
「何であんな態度取るのよ?助けてもらったんだし、
今頼れる人はあの人だけなんだから、素直に聞きなさいよ!」
愛麗はジャンゴに対し、あからさまにピシッと指を差す。
それ以前に、愛麗の声はデカイので、距離を取ったジャンゴにも聞こえていて、意味がない。
「怪しいだろ!?日本がないとかいってんだぞ?」
同じく、瑛亮も声を張る。
「けど、どう見たって、ここは日本とは違う場所でしょ?
ジャンゴの言ってる事の方が筋が通ってるじゃない。」
「……けどよ」
愛麗の言っている事は正しいが、納得できない瑛亮は言葉を詰まらせる。
「今はあの人を信じようよ。」
“嫌だ”と言いたいのは山々だが、あの愛麗に素直に言われたら、
瑛亮はなぜか断れなかった。
「…オレはどうなったって、知らねぇからな!」
ぶっきらぼうに応えた瑛亮は、そっぽを向く。
「大丈夫!いいようになるって。」
本当はどうになるか愛麗には見当も付かないし、どうすればいいかもわからない。
ただ、目の前のジャンゴという男を頼るしか道はなかった。
話が終わった2人はジャンゴの元へ戻る。
「ごめん、ジャンゴ。話を続けて。」
愛麗は一言謝ったが、瑛亮はそっぽを向いたまま反抗的な態度を改めない。
「話は済んだか?それじゃ、この国から出る手っ取り早い方法を教えてやる。
それはミシュティールから船に乗ってラドルアに渡ることだ。」
「船?でも、危ないんじゃ?」
「まぁ、それなりにな。けど、国境を越えて、帝国に行くよりは安全だ。
金は俺が必要な分をやるから心配ねぇ。」
ジャンゴはズボンのポケットに手を突っ込み、お金を探す。
「そんな、お金までもらっちゃ...」
「お、あった。1万デールもありゃ、足りるだろ?」
愛麗の言葉を遮り、ジャンゴはぐじゃぐじゃの札を1枚、
愛麗に突き付けるように渡す。
「…デール?」
渡された札をまじまじと見て、愛麗は不思議そうに言った。
その札は日本のものでもなければ、見たことのない絵が描かれていて、
どこの国の札とも違った。
「この世界の通貨だ。その様子じゃ、やっぱり一文無しなんだな。」
ジャンゴの言葉に愛麗は申し訳なく思い、小さくうなすいた。
「ありがとう。アタシたち、知らない土地にいきなり、
落ちてきて何が何だか分からなくて、ジャンゴに会えなかったら、途方に暮れてた。きっと。」
「嬉しい事言ってくれるじゃねぇか、愛麗ちゃん。」
愛麗にお礼を言われて、上機嫌になったジャンゴはケラケラと笑う。
「それじゃ、俺が森の出口まで送ってやる。」
ジャンゴはそう続けて、草むらのむこうにあった獣道のような荒れた道を進みはじめた。
愛麗と乗り気ではない瑛亮も後に続いた。
森の出口までくると、ジャンゴは急に真剣な顔になり、2人に忠告する。
「真っ直ぐいけば、ミシュティールだ。いいか、くれぐれも兵隊には捕まるな。
入国許可書を持ってないってことは不法入国だ。この国で、不法入国は重罪だからな。
何をされるか分からない。」
愛麗と瑛亮も真剣な顔でその話を聞く。
「俺はミシュティールには行けないから、ここまでしか案内できねぇ。
ラドルアに行っても上手くやってげよ。」
「分かった。あとは2人で何とかやってみる。」
愛麗は瑛亮に目で合図してみるが、瑛亮は愛麗を見向きもしない。
「ありがとう、ジャンゴ。」
「いいって。愛麗ちゃんも瑛亮も達者でな。」
ジャンゴに手を振り、重ねてお礼を言った愛麗と相変わらず
反抗的な瑛亮はヴィーリッドの森を出て、ハーノムの首都ミシュティールへ向かった。