小さなリリアスは迷っていた。
迷い込んだ森の中で、こんなにきれいな花畑を見つけて、
嬉しくなっているうちに周りがお花だらけになっていたのだ。
もと来た道も判らない。
だから思うことにしたのだ。
なにしろ森というものは目印もあまりないし、迷ってしまうのは仕方のないことだと。

「そうよ、リリィは悪くないの」

声に出して言い訳してみた。
そこには彼女を責めるモノもなく、あるのはただただ一面のにぎやかな花々と、何処までも続く青い空。

「むしろラッキーだったんだよ」

こんな素敵な場所を見つけられたんだもんね。
そう口に出すと自然と笑みがこぼれてきて、小さなリリアスは広い広いお花畑を駆け出したくなった。
むずむずするような、くすぐったい春の風が彼女を撫でる。
もうリリアスの不安はどこかに飛んで行ってしまったようになくなっていた。

丁度いい切り株に腰を見つけて腰を下ろすと、お日様に照らされた切り株はなんだかほっこりと温かかった。
リリアスもつられて幸せな気分になる。

くすくすと一人で笑っていた、
途端に目に飛び込んできた人影。

誰かがいる。
そう思うと、どうして今まで気づかなかったのかが不思議なほど急にその影から目が離せなくなった。
お花畑に座り込んで、何かいじっているようにも見えるその男。
あちらはリリアスには気付いていないようだ。

怖いわけではないが、気になって仕方がない。

リリアスは勇気を出して、息をひそめてその影に近づくことにした。
恐怖よりも好奇心の方が勝ってしまったのだ。
お花の上を歩くのだから音はしてしまうし、
リリアスは気配を消せるとか、そんな身体能力の持ち主でもなかったが、
心地よいくらいの春風がさわさわと花を撫でていく音でリリアスの足音は男には聞こえていないようだった。

そろそろと男の背後まで来ると、思っていたより相手は自分よりはるかに大きいことに気付く。
少し怖くなったが、また好奇心が勝った。

男の背中に見慣れない翅が生えていたのだ。
ちょうど、蜂のそれのように。

ひっぱりたい

一度湧いた好奇心を抑えることは、リリアスにはとても難しかった。

ひっぱっちゃおう、一瞬だけならいいよね。
こんなに透明なんだから、もしかしたら気付かないかもしれないし…。

リリアスは、薄くて透明のその翅を思いっきり引っ張った。
途端に上がる悲鳴。

「痛ってェエエエ!!」
「!」
「何すんだよ!!」


男は驚いて飛び上ると、ぶわっと涙をためた目でこっちをにらんできた。
リリアスはその顔に思わず噴き出す。


「なっ!?な・なに笑ってんだよ?!もしかして鬼畜か!対モンスター用の戦闘リヴか!?可愛い容姿で俺を騙す作戦だな!」


なんて卑劣なんだ!とよく判らない言葉を言いながらそいつはばばっと距離をとった。
自分より大きい男が慌てふためいているの様子を見て、リリアスは余計可笑しくなる。


「リリィはリリィだよ」
「……は、」
「リリィ!向こうの村に住んでるの!ハチのくせに何にも知らないんだね!」
「(は、はちのくせに?!)…てめェさっきから失礼だな!生意気でムカつくわいきなり翅引っ張るわ…!」
「はねなんて普通ないもん!珍しいから引っ張っただけだもん!」
「おま、!?げるかと思ったんだぞ!?めっちゃ痛いんだぞ!!?もう二度とさわんなよ翅!」
「うるさい!」
「痛ーッ!!!ばかやめろ触角とれる……!!!」


呆けた顔のハチに、リリアスは声のトーンをあげる。
と、相手も負けじと言い返してきた。
スズメバチだかミツバチだかどっちか判らないが、とりあえず変なハチなのだ、こいつは。
はねがだめならこれはどうだと、リリアスは頭のてっぺんから延びていた二本の触角を思いっきり引っ張ってやった。
ハチはあわててリリアスを引き剥がすと、触角に手を伸ばす。


「くっそ、痛ェ…あれ!?うそ曲がってんじゃん触角!?信じらんねー!」
「ハチはそれみんな生えてるの?曲がってた方がみんなと違ってかっこいいかもよ?」
「それ本気じゃないよなリリィちゃん」
「リリィはいつでも本気だよ(にこ!」


こいつ……!
とハチが呟いた時、お花畑の奥から聞こえてきた聞き覚えのある声。
おーい、とリリアスを呼ぶその声は、彼女を探しにやってきたマロシュロの声だった。


「リリィー!!」
「あ、マシュー!!」


走り寄ってきたマロシュロにリリアスは飛びついた。
ぎゅっとその小さな体を抱きしめて、マロシュロは言う。


「心配したんだよリリィ、迷子になっちゃったかと思って…」
「迷子になんかなってないよ!」
「嘘だ〜だって村から大分遠いとこまで来てるよー?」
「う、うるさいなぁ…」


もごもごと口ごもったリリアスをマロシュロは笑って抱いていた手を離した。
そこで彼ははじめて、気まずそうに目を細めてこちらを見ている男に気がついたのだった。


「えっと、リリィ、知り合いの方?」
「あ、うんハチだよ」
「ちげーよ惜しいけどちゃんと名前あるからな」


ずばっとすばやいつっこみをくりだした男をマロシュロは見つめる。
ハチ、ということはモンスターか。
頭の触角や翅から見て間違いなさそうだけどどうしてモンスターがリリィといっしょに?
不審げな目線に気付いたのか、男はあー…と出だしに迷ってからこう言った。


「リリィちゃんに出会いがしら暴行されまして」
「………は?」
「ちがうよ!ちがうのマシュ、リリィは翅を引っ張っただけなの!」
「だけとかよく言えるなぁおちびちゃんお前らにはこれを引っ張られる痛みが分かんないんだろうなァ?」
「うるさいよ今リリィがマシュと話してるんだよ!」
「カチーン!てめェこの野郎!!」
「わーっっ待って、待って!!」


リリアスに掴みかからんばかりのその男に、とりあえず苦笑で制止を入れてから
マロシュロは何となく話が読めた気がしてえーっと、とつぶやいた。


「つまり、リリィが突然翅を引っ張ったために口げんかになって、そこに俺がやってきたと…」
「リリィのせいじゃないもん!!」
「いやおまえのせいだかんなちびっこ^^」
「…すいません、リリィがご迷惑を;」
「あー…いや、いいんだ、別に俺気にしてねェから…多少ムカつくけど」


ちらりとリリアスを見て男は言った。
リリアスがまだ文句を言いながらそのハチと言い争っているのを見ながらマロシュロは考えた。
とりあえず、リリアスがモンスターを襲ったのには驚いた。
好奇心からなら仕方ないような気もするけど、普通なら命にかかわる恐ろしい目にあっていたはずだとマロシュロは思う。
変なモンスターだ、リヴリーに、リリアスのような子に襲われて、しかも反撃も無しとは。


「…っていうか、ハチ、お花畑で何してたの?」


リリアスが突然訪ねた。
確かに普通の蜂ならともかく、モンスターがお花畑にいるのは変だ。


「何かいじってたよね、?」
「あァ…あれね…」
「何してたの?」


しつこくリリアスが聞くのにうざったそうな眼をして、男は呟いた、


「花で冠作ってたんだ。俺の友達がそういうの好きでさ。お前がさっき暴れてたのに巻き込まれてなきゃ、その辺にあるハズだぜ」
「かんむり?すごい、器用なんですね!」
「意外とね!」
「張り倒すぞリリィちゃん」


マロシュロはつくづく変なハチだと思った。
リリアスの方は男の言葉を聞きもせずに花で作ったというその冠を探し始めていた。
お花畑に同化していまいち判り辛かったが、それでも彼女はそれを発見して笑いながら男に差し出す。


「ほら、おともだちにあげるんでしょ」
「…いや、いいや」
「え、でも」
「それはお前にあげるよリリィちゃん」


にっと笑って男は言う。
リリアスの顔がぱっと輝いた。


「ほんと!?」
「うん、ま、そんなに日持ちはしねェけどな」
「ありがと、ハチ!見て見てマシュー!かわいい!?」
「うん、よく似合うよリリィ。ありがとうございます、ハチさん」
「いいよ、ぜんぜん」


そうやって笑うと男は腰を上げ、そろそろ行くよと呟いた。
リリアスがえー、と呻く。


「じゃあなおちびちゃん、暇だったらまた遊びに来てやるよ」
「うん、またかんむり作ってね」
「もう翅引っ張んなよ」


苦笑して背を向ける男に、リリアスは別れの言葉を呟いた。
ひらひらと手を振るその後ろ姿に、マロシュロは思い出したように叫ぶ。


「そういえば、お名前、まだ聞いてませんでした」


男は振り向きもせず、立ち止まりもせず


「蜂散。ハチコって呼ぶんじゃねェぞ」



男の背中から生えた翅が、太陽にきらりと光った。







黄色い春の日

(ねぇマシュ、もう名前ハチでいいんじゃない?)
(ハチコって呼ばれてるみたいだしね…)







睡蓮さまのステキ企画に参加させていただきました(^^)/
マロシュロは旧キャラで今の世界観は現代のため、
ちょっと留守してますw

あ、くれぐれも睡蓮さまのステキ文とモカの
乱雑な文を比べないようにww
いや、リアルに(--;)